創作講談ワークショップ

~意外と知らない、その地域の伝統やむかし話~

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2018年8月25日(土)
創作講談ワークショップ発表会
~意外と知らない、その地域の伝統やむかし話~

「パン!」
釈台を叩く音が心地よく響く、ここは浅草橋区民館。去る8月4、5日、上野公園にて華やかに開幕した江戸まちたいとう芸楽祭。
先週の気候が嘘のように、厳しい暑さが戻った本日8月25日(土)は、夏休み中に講談師の指導を受け、講談を創り上げた子どもたちがその成果を発表する時です。
まず、子供たちの師匠にあたる神田紅さんによる挨拶がありました。出演を控えた子供たち、そして神田紅さんの門下の方々がステージに揃うと、なんと会場を巻き込んでの「声出し」が始まりました。張り扇で釈台を叩くタイミングで膝を叩き、リズムをとりながら行った発声練習は迫力満点でした。筆者は出演者の方々の目前、最前列でそれを聞かせていただきましたが、皆様の声に圧倒されてしまいました。ピークから次第に下っていく「うたい調子」のことや、話し手が釈台を三回叩いたら「拍手を頂戴」を意味することなど、神田紅さんは、会場の皆様に講談を鑑賞するうえでのポイントも教えておられました。

そしてこの日の一番手を務められたのは、神田紅さんの門下であられる紅純さんです。『竹千代と長四郎』という絆の物語が、臨場感いっぱいに語られました。様々な人物が登場する中で、話し方やしぐさはもちろん、目線の使い方をも駆使され、キャラクター一人ひとりに個性を吹き込んでおられました。会場からは笑い声も聞かれ、冒頭の「声出し」によるその雰囲気が、さらに温まったように感じられました。この物語を初めて味わった筆者ですが、思わず長四郎のことを応援したくなってしまいました。彼が屋根に上っていくシーンや、叱責を受けるシーンでは、観客の皆様も「がんばれ長四郎!」と感じられたことでしょう。

続いて登場したのは創作講談ワークショップ参加者であられる小学校四年生、紅花さんです。髪飾りの輝く、まるで物語に登場する人物であるかのような衣装に身を包み、語られたのは『かっぱの人助け』です。難しい言葉がたくさん出てくることに加え、河童という、人ではないものを演じなければならないということで、かなりの練習をされたに違いありません。実際に講談終了後のインタビューでは、「河童の話し方が難しかった。」と語った紅花さん。しかし、河童のセリフになると「語り」とは違うテイストの声になり、また身振り手振りも交えることで差別化を図っていたと感じられました。小学生最初の出演ということもあり、感じるプレッシャーや緊張感はいかほどのものであったのでしょう。「緊張した」と自らの舞台を振り返ったその和やかな表情からは、発表を終えた充実感もにじみ出ているようでした。

文字通り、会場がざわつきました。小学校二年生とは思えない、紅陽さんの渋い声に観客の皆様は驚きを隠せなかったのでしょう。たっぷりとした話し方で『秋色桜』を披露される紅陽さんは、自らの講談を「少し緊張した」とする一方で、「楽しかった」と振り返りました。筆者は特に「危ねえぜ」というセリフを耳にした時には、目の前の小学校二年生が発音したことを疑ってしまいました。観客の方も、「いい声をしている、あれは大物になる」と紅陽さんの話を大絶賛しておられました。会場のざわつきには、そうした彼の将来への期待感や、信じられないという驚きなどといった様々な感情が含まれているようでした。

次に『越の海』を語られたのは、神田紅さんの門下であられる紅佳さんです。大柄な相撲取りの野太い声と、小柄で若い相撲取りのはつらつとした声のコントラストがとても印象的でありました。2mの者と1m50cmの者を目線や動作によって差別化し、実際に相撲を取るシーンでは土俵際の臨場感をとてもリアリスティックに感じ取ることができました。相撲に関する補足説明が随所に散りばめられていたことにより、筆者のように相撲に疎くとも、お話を十分に楽しむことができました。

『子供議会とゾウ列車』というユニークなタイトルの通り、面白いお話を展開されたのは神田紅さんの指導を受けられている紅吉さんです。低く、お腹に響くような声をしておられる一方で、子供たちの元気一杯の声も見事に演じわけられ、登場人物の多さを感じさせない講談でありました。エレファントと「えれえ太ってる」、「ゾウが欲しいと言っているぞう」のくだりには、会場からも思わず笑いが出ていました。こうしてレポートとして解説してしまうと何一つとして面白くはないのですが、実際に講談を聞いてみると、面白いのです。

本日の出演者の中で最も若い小学校一年生、紅帆さんのお話に会場は大注目です。先ほどとは異なる雰囲気の『秋色桜』が、元気のよい、大変聞き取りやすい口調で語られました。また身振りや手振りもふんだんに用いられ、張り扇で釈台を叩く動作も含め、身体を一杯に使った躍動的なステージでありました。学習していない漢字どころか、一般的な小学校一年生では聞いたこともないであろう難しい単語の羅列にもかかわらず、つかえずに語りきったことや、独自のジェスチャーを取り入れていたということもあり、練習をたくさん重ねたこと、そしてある種のセンスを感じずにはいられませんでした。観客の方も、「うまかった、たくさん練習をしたに違いない」という言葉を漏らしていました。自らの講談を「全部楽しかった」と振り返った紅帆さんのはじけるような笑顔に、会場は微笑ましい雰囲気に包まれました。

「仲入り」という言葉を知らなかったのは筆者だけでしょうか。ここで仲入り、休憩が挟まれました。これまで講談を鑑賞したことがほぼない筆者は、そうした独特の表現の一つひとつに文化を感じました。他にも、舞台袖にある演者の方々の名前が墨で書かれた紙のことを「めくり」ということや、講談師の方々が話をされる一段高くなっているところを「高座」ということをこの日初めて知ることができました。
再開後、始めに『かっぱの人助け』を語られたのは神田紅さんに指導を受けておられる千紅さんです。紅花さんとは異なる雰囲気で物語の世界を表現された千紅さんによる河童は、とてもはじけていました。紅花さんの演じられた河童は、子供ならではの声ということもあり、どこか幼く、あどけない印象であったのに対し、千紅さんによる河童は人間でいうところの小学生ほどの、活発で明るい印象でありました。また独特な間をお持ちであり、演者による作品世界の相違が際立っていました。河童の演技に力を入れておられると思われた一方で、講談終了後、「なかなか河童を演じきることができない」と感想を述べられた千紅さんの向上心は凄まじいものであると感じました。

発表会もいよいよ終盤。子供たちのトリを務められたのは、小学校五年生の紅賀さんです。釈台を叩く音がとてもよく響いていた印象の強い紅賀さんは、『子供議会とゾウ列車』を語られました。登場人物が多く、難易度が比較的高いと思われる中、それぞれの役になりきることでうまく差別化を図っていました。紅賀さんは要所でオリジナリティを入れているようでしたが、中でもゾウが登場した際の「パオーン」というシーンでは、会場の空気が緩んだような感じがしました。出演前には少し緊張していたが本番ではうまくできたと振り返った紅賀さん。ご自宅の練習時にはより激しく演技をされていたということを神田紅さんに暴露された際の焦ったリアクションには、会場から笑いがこぼれていました。

「面白いに違いない。」大トリとして、数ある得意ネタの中の一つである『桂昌院』を披露された神田紅さんのお話に、会場にはそのような雰囲気が漂っているようでした。換言するならば、観客の皆様が安心して五感を傾けることができるとでも言うべきでしょうか。ユニークな表情や声、そしてツボを押すようなその間の使い方に、会場からは多くの笑いが生まれました。ご自身の演技に対し、「まあこんな言い方、しないとは思うのですけど」と自虐的なツッコミを入れられた場面や、「美人は三日で飽きる。でもブスは三日で慣れるのです」という強烈な言葉が登場した場面は、その象徴と言えるでしょう。また田舎育ちの筆者は、八百屋さんが家を訪ねるシーンに驚くべき既視感を覚えました。入り口から家中に声を飛ばす、そのワンシーンにもいわば昔ながらの文化が巧みに表現されていると強く感じました。

お話の終了後に音楽が奏でられ、続く演者が釈台を叩いたらそれが止まり、次のお話が始まる。その音楽中に「めくり」がめくられ、釈台を拭くことで次の演者の準備をする。あらゆることに、筆者は独自の文化を感じずにはいられませんでした。また講談には身振り手振りがあるために観客は舞台から目が離せず、その中で演者は釈台を叩く音によって物語のテンポを自分のものにしていくのです。講談はとても面白いものであると同時に、目線の使い方や話のリズム、そして間の取り方など、物事をうまく相手に伝える上で重要なポイントを学ぶことができるものであると、筆者は考えます。さらに小学生ならではの表現も垣間見えたことで、筆者は大人にはない何か純粋なものがそこにはあるのではないかと考えてしまいました。
神田紅さんの「将来講談師になる?」という質問に、発表を終えた小学生全員が首を縦に振ったことは、観客の皆様を微笑ましい気持ちにさせたに違いありません。創作講談ワークショップは、様々な意味において大成功のうちに幕を閉じたと言えるでしょう。

レポート:芸楽祭ボランティア 頓所夕弥
写真:芸楽祭ボランティア 鎌田俊英