オープニング

無料鑑賞

2018年8月4日(土)・5日(日)
オープニング
~台東エンターテインメンツ 華やかに開幕!~

  • 岸本 加世子
  • 寺島 進
  • アル北郷
  • 唄声ガイド
  • 美聖一座
  • ピヨピヨ
    レボリューション
  • 大和家一座
  • 葵と楓
  • 国際芸術文化交流 舞

オープニング1日目

照りつける太陽の下、上野恩賜公園。「みなさんこんにちは!」立っているだけで汗が出る、そんな記録的猛暑の中、NHKラジオセンター専属契約キャスター黒崎瞳さんの爽やかな一言で開幕した「江戸まちたいとう芸楽祭」のオープニングイベント。
トップバッターを務めたのは華やかな着物と和傘、そして昔ながらの衣装を身にまとった美聖&プッチャリンfeat.車寅一郎の皆様です。昭和の文化を感じさせるその歌声と音楽に引き寄せられるように観客も増えていき、広いステージをいっぱいに使ったパフォーマンスの雰囲気に会場が飲み込まれていきました。中でも「大きな木になりたい」における、観客の女性をステージに上げての劇的なフィニッシュは「お客様と作り上げる演劇」そのものでした。また美聖さんのオリジナル楽曲「日本茶チャチャ」では、会場を訪れたあらゆる年代の方々が三・三・七拍子の軽快なリズムを楽しんでいました。

続いて登場したのは唄声ガイドの御三方です。唄声バスツアーという、「エンターテインメントを融合させた新感覚のバスツアー」は今年で七年になる新たな浅草発祥の文化です。そこでガイドを務められる皆様の鮮やかな赤色の衣装は、公園の木々の緑との美しいコントラストを演出していました。そんな皆様は、歌だけでなく振り付けまで完璧だった「暑中お見舞い申し上げます」、会場が一つになった「Y.M.C.A.」など数々の名曲を熱唱されました。中でも筆者が特に印象的であったのが「上を向いて歩こう」でした。体を揺らしながら楽しむ外国人や口ずさむ小学生の姿は、その曲が日本を代表する、世界的な名曲であることを象徴するようでした。観客の皆様にマイクを回しながら「一緒に歌う」ことをテーマとする唄声バスツアーからは、今後も目が離せません。

次第に日も傾いてきた頃、次に登場したのはピヨピヨレボリューションの皆様です。そのパワフルな歌声とダンスに、気づけば観客数も倍ほどに。中でも「即興LIVEスタイルエチュード」と称される即興演劇では、これまでにない新たな演劇の形を体現していました。それは観客から出たキーワードによる演劇を最後は歌につなげるというもので、初めのお題は「パンダ」と「西郷さんの銅像」という上野公園らしい二つ。亡くなった子どもが天使になるという超展開に、観客の皆様はあっけに取られていました。その後も「スカイツリー」と「ミュージアム」の二つ、「暑い」と「孫」、「熱中症」の三つという、関連性があるようでないようなキーワードのもと独特な演劇を展開したピヨピヨレボリューションの皆様。最後は会場全体で「ありったけの愛を」を振り付きで熱唱しました。老若男女を問わず、暑い中腕を振る観客の皆様の姿はとても輝いていました。
木々の影が伸びてきた頃、浅草安来節の公演が始まりました。和太鼓ならではの力強くも包み込まれるような音や三味線の身体に響き渡るような音が会場を覆いました。あまり知られていないであろう「どじょうすくい 女踊り」や有名な「どじょうすくい 男踊り」という日本らしい演劇に、通りかかった外国人も思わず足を止めていました。暑さによる手汗で、難易度がいつも以上であったと思われるにもかかわらず、素晴らしいパフォーマンスでした。また観客の男の子をステージに上げての手品にも、温かい拍手が送られました。

開幕当初に比べるとかなり涼しくなってきた頃、服部征夫台東区長河野純之佐台東区議会議長の御二方よりの挨拶がありました。趣のある和装をまとわれた服部征夫区長は、今年、2018年を「江戸ルネサンス元年」として様々な文化活動に取り組む台東区についてお話をされました。また、きれいな鶯色の法被姿で登場された河野純之佐議長は、台東区、浅草において大衆芸能や大衆文化が発展し、様々な有名人が誕生したという歴史を語られました。御二方の興味深いお話に、観客の皆様は時より笑顔を浮かべながら耳を傾けていました。
きれいな夕焼けの中、ここまでMCをしてこられた黒崎瞳さんは、この江戸まちたいとう芸楽祭を「お客様と一体となることができる新たなエンターテインメント」であると評されました。その段取りのよい、誰にでも聞き取りやすい素晴らしい進行に大きな拍手が送られました。

そしてここで、スペシャルゲストの岸本加世子さんとアル北郷さんが登壇されました。まずはフォトセッションの時間が設けられ、その後トークショーが始まりました。御二方からは、「台本はあってないようなものである」というお話や、「役作りをしないでほしいと監督にお願いされた」というお話など、北野武監督の映画における知られざる舞台裏が語られました。また久石譲さんの『summer』をBGMに、『菊次郎の夏』という作品について、御二方のリズミカルなトークが展開されました。アル北郷さんは「この作品には北野武さんの天使の部分が出ている」と表現されていました。監督による手書きの天使や「天使の鈴」というアイテムが登場するなど、「作品全体がどこかほんわかとしている」というアル北郷さんのコメントに対し、岸本加世子さんも大いに共感されていました。そんな中、会場が最も盛り上がったお話の一つに「子役オーディション」がありました。北野武監督が、他のスタッフが予想だにしなかった子に決定した際のエピソードはとても強烈であり、会場からは笑いと驚きの声が上がっていました。

台東区の魅力が凝縮されたPVが放映され、辺りがすっかり暗くなった頃、いよいよ映画『菊次郎の夏』が上映されました。これまで鳴き続けていた蝉の声も静まり、涼やかな風が吹く中、小さい子どもからご年配の方まで多くの方々が映画を満喫していました。若い方々は、現代とは異なる文化にどこか戸惑いながら鑑賞をしているようでした。一方ご年配の方々は「(役者が)若い!」と当時を懐かしんでいる様子でありました。久石譲さんの『summer』に乗って、作品の世界観が観客の方々に響き渡り、そしてピヨピヨレボリューションの天使のくだりが伏線となっていたかのような北野武監督による手書きの天使の絵とともにクライマックスを迎えました。鑑賞された方々からは「とてもよかった」という声も聞かれ、江戸まちたいとう芸楽祭のオープニングイベント初日は素晴らしい夜を迎えることができました。観客の皆様が帰られた後の公園には、静けさが漂う一方で、明日の二日目が待ちきれないといった余韻が残っているように感じられました。

レポート:芸楽祭ボランティア 頓所夕弥
写真:芸楽祭ボランティア 江頭幸宏、鎌田俊英、佐藤啓二

オープニング2日目

初日を超えるような暑さの中、人々の目を惹く着物を身にまとった前田和美さんのMCで幕を開けた江戸まちたいとう芸楽祭のオープニングイベント二日目。
本日のトップバッターは花やしき少女歌劇団の皆様です。モノクロの衣装をお洒落に着こなす五人による「東京ブギウギ」は、道行く人々の足を次々と止めていました。誰しも一度は聞いたことのあるそのリズムに惹かれてステージを見ると、そこには現代風の衣装とダンスという想像の斜め上をいく光景が。二日目のスタートを飾るにふさわしい、素晴らしいパフォーマンスでありました。

次に三味線を片手に颯爽と登場したのは葵と楓の御二方です。大学一年生の葵さんと高校三年生の楓さんによる、息のあった演奏に会場は大いに盛り上がっていました。「潮来笠」や「青春時代」、「微笑みがえし」といった名曲を、ある時は笑顔で、またある時は凛とした表情で、そして時にはお互いに見つめ合いながら歌い、踊られました。女性のお客様の中には、それらの歌はもちろん、踊りも覚えておられる方が見受けられ、大変印象的でありました。

花やしき少女歌劇団による「浅草小町のブギウギ」や、葵と楓の「浅草においでよ!」において表現された浅草の趣は、その歌とダンスに乗って観客の皆様に届いたに違いありません。浅草を愛する気持ちがあふれる皆様のステージは、花やしきを飛び出して上野公園に新たな風を吹かせたように感じられました。
続いて、突き抜けるようなハスキーボイスを会場に響かせたのはA-COさんです。今年の6月6日に2ndミニアルバム『colors』をリリースされたA-COさんは、名曲「ハナミズキ」をはじめ、ご自身のお母様がカラオケで歌っておられたという「スイートメモリーズ」、さらには会場の雰囲気を一変させたジャズソング、「色彩のブルース」を熱唱されました。最後にオリジナルソングである「ギフト」を披露しました。ボランティアスタッフとしてステージを拝見する筆者に対し、A-COさんについて尋ねるお客様がおられたこともあり、その歌声に大変多くの方々が耳を傾けたことは明白でした。

座席が木々の陰に覆われ、観客数が膨れ上がると、国際芸術文化交流 舞の皆様が登場されました。「ダンスで世界を広げる」のテーマのもと、スタートと同時に二十分に及ぶノンストップダンスが繰り広げられました。これまでの日本の歩みを噛みしめるように、男女のペアによる息の合ったダンスや「原宿ロック」、かの有名なマイケルジャクソンやスーパーマリオブラザーズのダンスが次々に披露されました。また9.11アメリカ同時多発テロや3.11東日本大震災を表現したパートは、会場中の視線をステージにくぎ付けにしていました。心情や雰囲気、言葉で表現できない何かをダンスによって伝えようとするその姿に、観客席やSNS上からは「思わず涙が出そうになった」という声も聞かれました。終盤には「2020年東京オリンピック開催決定」や、赤ちゃんパンダ「シャンシャン」の誕生といった昨今の一大ニュースも取り上げられ、会場からは多くの歓声が上がっていました。クライマックスの「This is me」と「Y.M.C.A.」は観客席を巻き込み、「I was born to love you」や「P.P.A.P.」同様、外国の方も非常に楽しんでおられる様子でした。国際芸術文化交流 舞の皆様の中には、登場前に円陣を組んでいたグループもあり、そのパフォーマンス終了後の達成感に満ちた表情はとても輝いていました。

地平線に近づく太陽を望み、昨日に引き続き登場されたのはピヨピヨレボリューションの皆様です。去る7月13日から同22日まで吉祥寺シアターにて上映された「プロポーズ難民」より、多くの歌とダンス、演劇を披露された皆様。この日も、観客の方々と一体となるエンターテインメントショー、「ライブstyle演劇」は会場を大いに沸かせていました。そして本日も始まった即興演劇。第一幕は「パンダ」と「マイケルジャクソン」の二つ、第二幕は「トイレ」と「花火」という二つをキーワードに、独特の世界観が繰り広げられました。特に第二幕で展開された「人間花火」はSNS上を含め、あらゆるところで話題になっていました。今回は外国の方からのキーワードもあり、その昨日とは異なるテイストは即興であることを物語っているようでありました。観客の皆様と一緒に作り上げるステージはその度ごとに姿を変え、「観る人の数だけ物語がある」ということを体現していました。

カメラを構えた方々の緊張感が高まっていました。薄暗い公園にきらめく銀色の扇子を片手に登場されたのは話題の俳優、寺島進さんです。四十から五十代の方々だけでなく、十代から二十代のファンも、女性だけでなく男性のファンもおられたことは、その幅広い人気を象徴していました。アル北郷さんとともに登壇された寺島進さんは、北野武監督による大人気作品、「brother」についてのお話や、ベネチアで警察沙汰になったエピソードを語られました。入国審査において「problem?」と問うと「problem!」と返され、パトカーに乗せられたというお話に会場は大盛り上がり。映画『HANA-BI』に出演された当初は監督に「あんちゃん」と呼ばれていたという寺島進さんは、「役者に現役引退はない」という監督の言葉に励まされ、俳優を続けてこられたそうです。北野武監督を「役者としての育ての親」であり「恩師」であるとするその熱いお話に、会場を訪れた皆様は胸を打たれている様子でした。
寺島進さんは映画『HANA-BI』について、古き良き浅草や日本の四季の美しさが表現された素晴らしい作品であると語られました。そして「暴力と優しさは紙一重である」というお考えに、会場からは感嘆の声が聞かれました。また「いっぱいお金を落とした」と表現される台東区については、千葉県で捕ったアオダイショウを上野で売ったことや、奥様と初めてのデートをされたことなど、多くのエピソードを披露されました。
「十分義理は果たしたからな。」それは寺島進さんが北野武監督に挨拶をされた際に返されたお言葉だそうです。男も惚れる男、寺島進さんの「やるよ、寺島進は。天下とるよ!」という最後のお言葉に、会場からは大きな歓声と拍手が上がり、緊張感が漂っていた報道陣も、表情を緩めずにはいられないという様子でした。

『HANA-BI』の上映中は、その過激な描写に足を止める方々や、日常生活では馴染みのないシーンに固唾をのんでスクリーンを見守る方々、何かを話しながら鑑賞する方々など、様々な光景が見られました。花火の音と銃声、人を殴る時の音。音を使ってあらゆる感情や雰囲気が表現された作品は、「青空に鳴り響く銃声」で終幕しました。空を行く飛行機の灯りが滑り、ヘリコプターの音が響く現実の夜空は、作品世界とは全く異なる雰囲気を醸し出していました。

二日間に亘る江戸まちたいとう芸楽祭のオープニングイベントを通し、屋外において地べたに座り、夜風に吹かれて観る映画の新鮮さ、その良さを味わうことができました。空気を読んだかのように静まる蝉の声。火照った肌を冷ます夜風。それらすべてが、野外上映を演出しているようでありました。
一人一人の心に染みる物語。どのような形だったにしろ、オープニングイベントで披露された昭和歌謡や浅草演芸、ダンスやトーク、演劇や映画は鑑賞されたあらゆる方々に届いたのだと思います。「何を思い、何を感じるかは人次第。」この江戸まちたいとう芸楽祭は、日本人だけでなく、外国人、様々な背景をお持ちの方々が集まる台東区で開催されることで、より多様な意味を持つのでしょう。「鑑賞される方の多様」が一つ、重要なキーワードになっていると強く感じました。このようなスタートをきった江戸まちたいとう芸楽祭。今後のイベントからも目が離せません。

レポート:芸楽祭ボランティア 頓所夕弥
写真:芸楽祭ボランティア 佐藤啓二